配偶者居住権

相続に関する民法の改正案が、7月6日に成立しました。相続法の様々な重要論点について法改正がなされていますが、今回は、そのうち、配偶者居住権について事例を挙げてご紹介します。

【配偶者居住権とは】
配偶者居住権とは、被相続人の配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、一定の要件を満たす場合には、その居住していた建物の全部について無償で使用及び収益をする権利(配偶者居住権)を取得する、という制度です。

【事例】
家族構成は、夫、妻、長男、長女。
夫が亡くなった。相続人及び相続分は、妻(1/2)、長男(1/4)、長女(1/4)。
相続財産は、評価額2000万円の自宅と3000万円の預金だった。
自宅には生前の夫と妻が居住していた。妻は、今後も自宅に住み続けることを希望している。

【現行法での相続例】
『今後も自宅に住み続けたい』という妻の希望を最優先に考えた場合、妻が自宅を相続することが考えられる。
その場合、妻が自宅と預金500万円、子二人は一人当たり預金1250万円をそれぞれ相続する。

(上記相続例の計算の過程)

(各相続人が取得しうる相続財産の価額)
・相続財産全体の価額=自宅(2000万円)+預金(3000万円)=5000万円
・妻(相続分1/2)が取得できる相続財産の価額=2500万円(5000万円×1/2=2500万円)
・長男(相続分1/4)が取得できる相続財産の価額=1250万円(5000万円×1/4=1250万円)
・長女(相続分1/4)が取得できる相続財産の価額=1250万円(5000万円×1/4=1250万円)

(妻の相続)
自宅(評価額2000万円)+預金500万円=2500万円

(長男の相続)
預金1250万円

(長女の相続)
預金1250万円

【配偶者居住権を用いた場合の相続例】
配偶者居住権を利用すれば、妻は、自宅の所有権を相続しなくとも、自宅の権利のうち配偶者居住権の範囲で相続することにより、自宅に住み続けることができるようになる。
配偶者居住権の評価額(自宅が一戸建ての場合は敷地利用権の評価額を加えた額)が500万円だった場合、妻が配偶者居住権と預金2000万円、子二人は一人当たり自宅の配偶者居住権付所有権の2分の1と預金500万円をそれぞれ相続する。

(上記相続例の計算の過程)
(各相続人が取得しうる相続財産の価額)
妻:2500万円、長男:1250万円、長女:1250万円

(妻の相続)
自宅の配偶者居住権(評価額500万円)+預金2000万円=2500万円

(長男の相続)
自宅の配偶者居住権付所有権(評価額:自宅の評価額2000万円-配偶者居住権の評価額500万円=1500万円)の1/2(750万円)+預金500万円=1250万円

(長女の相続)
自宅の配偶者居住権付所有権(評価額:自宅の評価額2000万円-配偶者居住権の評価額500万円=1500万円)の1/2(750万円)+預金500万円=1250万円

【配偶者居住権のメリット】
このように、配偶者居住権を用いると、配偶者が相続する預金の額を大きくすることができ、配偶者のその後の生活がより安定する、という効果があります。

【配偶者居住権の施行時期】
なお、配偶者居住権は、2020年7月までに施行するとされていますので、今すぐに利用することはできませんが、施行後は、このような形での相続ができることになります。

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