近年、高齢者・障碍者福祉の分野で『意思決定支援』という言葉が強調されるようになってきています。この点について、事例を挙げて考察してみます。
【事例】ある事業所が、家族と同居する80代の男性の訪問看護を行っていたところ、家族がその男性を施設に入所させてしまった、担当者の把握している経緯からすると、その男性は在宅での介護を望んでおり、経済的にもそれが可能な状態だった。それにもかかわらず施設入居となったため、在宅看護のサービスは終了となってしまったが、担当者としてはそれでよかったのか、との思いが残った。
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現在の障碍者に関する法令では、『意思決定支援』という言葉がキーワードとしてあげられるようになり、特に、障害者総合支援法では、『どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され』という文言が用いられています。
このような法の趣旨を踏まえ、厚生労働省では、平成25年度より、意思決定支援の在り方についての調査研究を進め、今年の3月に、『意思決定支援ガイドライン(修正案)』が公表されるまでになっています。
このガイドライン修正案によれば、意思決定支援が必要と判断された場合には、意思決定支援責任者が配置され、意思決定支援計画が作成され、意思決定支援会議が開催されます。そのなかで、本人がどこに住むか、などの『人生の大きな選択』の場面では、本人の意思確認を最大限の努力で行うことに加え、本人に関わる関係者が集まり、様々な情報を交換し判断の根拠を明確にしながら、より自由の制限の少ない生活への移行を原則として、本人の最善の利益の観点から意思決定支援を進める必要があるとされています。
上記のガイドライン案は、障害者福祉の関連団体が厚生労働省より受託した研究結果として発表したものですが、高齢者福祉の分野でも、近い将来には、このようなガイドラインの趣旨に沿った形で、上記の事例のようなケースも検討が行われるようになると考えられます。
また、上記の事例からは、将来の介護について、判断能力があるうちに、自らの考えを形に残しておくことの重要性も浮き彫りになります。その方法として、任意後見契約があります。
平成28年に成立・施行された『成年後見制度の利用の促進に関する法律』第11条五号にも、任意後見制度が積極的に活用されるようにすることが、基本方針の一つとして定められています。
ご自身の介護のあり方について、どうぞ、ご相談いただければと思います。